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特集@どうなる県立中高一貫校/愛媛の教科書採択


 昨年8月、県教委が「新しい歴史教科書をつくる会」主導の扶桑社版中学歴史教科書を県立ろう、養護学校の一部で採択したことに端を発する「愛媛の教科書問題」。今夏は、来春開校の県留津中高一貫校での採択問題が論議を呼ぶのは必至。さらに高校の歴史教科書でも、同様の賛否を巻き起こしている明成社版「日本史B」の採択動向が注目されている。扶桑社版推進派の藤岡信勝/東京大教授(教育学)、反対派の浪本勝年/立正大教授(教育法学)がこのほど来県、インタビューした。(政治部・坂本敦志)

(2002/07/02 『愛媛新聞』より)

◆扶桑社版推進派◆
藤岡信勝(ふじおか・のぶかつ):58才。東京大教授北海道大教育学部卒。「新しい歴史教科書をつくる会」創立メンバー。現在は副会長。扶桑社版中学歴史教科書の執筆者の一人。著書に「近現代史教育の改革−善玉・悪玉史観を越えて」(明治図書)など。

▼中学歴史教科書をつくった目的は。 「今までの教科書は、過去の歴史をすべて階級闘争の歴史としてとらえ、支配抑圧のひどい社会だったと描き出す歴史観で書かれている」
 「その極端な礼が近現代史。当時の日本の国家政策すべてが正しかったtわけではないし、いろいろ問題点があったことも事実。しかし、近代日本は懸命の努力で独立主権国家を維持し、西欧を追い越すような成功を勝ち取ったというのが基本的なトーンのはず」

▼しかし、扶桑社版に対する批判は強い。近隣のアジア諸国への配慮を定めた、義務教育諸学校教科用図書検定基準の「近隣諸国条項」に反するとの指摘があるが。
 「外国の内政干渉を誘発する恐れのある条項を持っているのは日本だけ。条項の存在自体が間違い。しかも条項の効果で、扶桑社の教科書も記述を変えさせられたところがあるから、検定済み教科書が条項に反しているという非難は全く当たらない」

 「例えば、南京事件の記述。1937年12月、日本軍が南京で住民何十万人を虐殺したといわれている事件だが、資料上の証拠は全くない。当時宣伝された戦時プロパガンダの一つだ。あの戦闘で中国の人たちがたくさん戦死したことは事実だが、それは戦闘による戦死で、住民の虐殺とは全く別のカテゴリー」

 「学問上の成果に基づいて書かれるべき歴史に、日本の謝罪外交路線を持ち込むことは日本の歴史にとって不当なこと。外国が日本の教科書を”検定”する、その窓口になる条項は即刻廃止すべきだ。

▼採択語も49カ所の自主訂正があったと報道されるなど、記述面からも間違いが多いとの指摘がある。
 「確かに小さな間違いはあったが、新しい教科書をつくる場合、ある程度はさけられない。例えば、家永三郎氏が高校の日本史の教科書を書いたとき、500カ所の誤りが指摘されている」

 「扶桑社の教科書は文科省の検定に合格している。反対派が出した愛媛新聞の広告に『間違いの多い欠陥教科書」とあるが、特定の商品に対するひぼうで、広告の倫理綱領に反する重大な問題だと考えている」

▼昨年の全国での採択結果をどう見るか。
 「まことに残念な結果。しかし、全国の知事、市町村長、教育委員には、評価してくれた方もたくさんいる。テレビ局の全国世論調査では三割以上の支持があった。しかし、ご承知の通りの採択妨害活動があった。言ってみれば、左翼の脅迫、恐喝、暴力、テロに屈した格好だ」

▼採択制度について「つくる会」は「採択権は教育委員会にある」と主張しているが、必ずしも教育のプロとは言えない教育委員に教科書の適否が判断できるのか。
 「法律によって採択権が明確に教育委員会に属することは間違いない。扶桑社版の採択に反対する学者は『教育は最終的に教師が行うものだから、教師に教科書採択の採択権があるべきだ』と主張するが、これは日教組の御用学者が考え出したへ理屈」

 「彼らの理論を突き詰めると、文科省にも教育内容の決定権はない。文科省が学習指導油量や検定を一切やらないとすると、一体教育内容を誰が決めるのか。教師の恣意(しい)で、教える教えないを決定するのなら、全国の統一した教育ができず、公教育の否定になる」

▼加戸知事の発言への評価は。「つくる会」に取って、今夏の県立中高一貫校での採択はどのような意味を持つのか。
 「知事の発言はまことに妥当なもの。『外国の干渉で教科書の採択を変えるようでは主権国家とは言えない』との発言もまったくその通り。知事は、教科書採択の重要性を、文科省のトップを経たスペシャリストであるだけに理解している」

 「中高一貫校の採択については、どちらに転んでも、全国へ与える影響は、地元の人たちが想像する以上に大きい。今年は一年前とほとんど同じ顔ぶれの教育委員が、まったく同じ八種類の教科書を対象に採択するわけだから、昨年と違う決定をしたとすると、『昨年は何だったのか』ということになる。私は当然、同じ教科書が採択されると予測している。

◆扶桑社版反対派◆
 浪本勝年(なみもと・かつとし):59才。立正大教授。東京大教育学部卒。学生時代から家永教科書訴訟にかかわる。「子どもと教科書全国ネット21」常任運営委員として、扶桑社版の問題点を明らかにする運動を進めている。著書に「子どもの人権と教科書」(北樹出版)など。

▼論議を呼んでいる扶桑社版、明成社版の問題点は。
 「歴史的な事実、学問の成果を反映していない。例えば扶桑社版では、神武天皇の東征ルートが書かれている。『東征したとされている』とはいっているが、歴史と伝承を混同させる教科書になっている」

 『特に戦争についての記述。アジア太平洋戦争について『緒戦の勝利はインドや東南アジアの人々に独立の勇気をはぐくんだ』『日本軍の南方進出はアジアの独立を早める一つのきっかけともなった』などと書き、日本の侵略戦争、植民地支配を合法化しようとしている。一言でいえば、戦前の国定教科書をほうふつしかけない内容。明成社版も、同じトーンで書かれており、同様の問題を抱えている」

▼扶桑社版、明成社版以外の教科書に問題はないのか。
 「ないことはない。例えば昨年の検定では、従軍慰安婦の記述が削除されたり、載っていなかったりする教科書が出ている」

▼中学生に従軍慰安婦問題を教えることが適当かという論議があるが。
 「中学校の先生が中学生にふさわしい方法で、一定の配慮をしながら教えるなら、特に問題はないと考える。大人が心配するほど、中学生は子どもではない。むしろ隠すと、子どもたちが不信を抱く」

南京事件をののように見ているのか。
 「私は歴史かではないし、南京事件の研究をしたわけでもない。ただ、信頼できる学者、教科書訴訟での証言、その他書物を通じ、私なりに考えた。つくる会は、虐殺はなかった、ウソだというが、もう少し歴史を大局的、客観的に見てほしい。資料は相手側の主張を先入観を持たずに考えることが必要だろう」

 「日本が行った過去の残念な事実はしっかり見つめ、再び起こさないようどうすればよいのか、しっかり考えることが必要。自分に都合のよい事実、日本が昔から良い国だったという歴史観は基本的におかしいと思う」

▼扶桑社、明成社版の執筆者は「自国に誇りの持てる国民を育てる」ことを目指している。
 「日本人が良いことをしたと繰り返すだけで、本当に誇りが持てるのか。21世紀に入り、自己中心的な歴史観は通用しない世の中になっているのではないか。日本も相対化、客観的に見ることが必要だ」

▼現在の教科書採択制度をどう見るか。
 「今は公選制の教育委員会制度ではなく、任命制。教育長が議会に提案し、同意を得て任命する。任命制になってから、首長の方を向く教育委員が多くなってきた。つくる会の運動はそこを利用し、教育委員に採択権があるという運動を展開した」「教育委員会は、基本的には教育条件の整備行政を行うのが基本。教科書の内容を教育委員に判断させ、あまり教師の意見を尊重しないで採択するのは、現行法の仕組みからしておかしい」

 「例えば、教科書検定権は文科大臣が持っているが、何十、何百の教科書を全部見て検定することはできないから、審議会などに諮問して、そのまま答申する形をとっている。文科大臣は形式的に、検定権を行使している。それと同様に採択も専門家に任せるようにしなくては、教育基本法との整合性が出ない」

▼扶桑社版採択など、愛媛の教育環境をどう見るか。
 「愛媛には、勤務評定導入、学力テストをめぐる不正などがあり、興味を持っていた。昨年、扶桑社版が採択され、加戸知事の採択に介入する発言もあり、驚いている。知事は旧文部官僚。その中でも中枢を歩み、官房長まで務め、教育行政を熟知しているはずだ。いい意味で文部官僚としての誇りを持って、本来の意味で教育行政ができるように見守ってほしい」

 「知事は本来発言すべきでないと分かっていながら介入する発言をしている。教育委員会名一般行政からは独立しているのだから、知事の発言があっても、独自の判断を積極的に打ち出すべきだ。知事発言に左右されるなら、何のための教育委員だろうか。今夏の中高一貫校の採択は愛媛の教育の今後を占う試金石になる」