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「採択の波紋/県立中に扶桑社教科書」


D2002/08/29 信頼築く教育訴え/交流の行方・戸惑う在日/近隣諸国の目

 県教育委員会が扶桑社版歴史教科書を採択した。8月15日、中国外務省報道局長は「日本は正確な歴史観で教育すべきだ」と批判の談話を発表。韓国外交通商省当局者も「遺憾だ。今後、必要ならば措置をとる」と不快感を表明した。

 しかし、その後、近隣諸国からは昨年のようなストレートな反応はみられない。特に去年、激しい抗議運動が起きた韓国では、この問題が報道されたものの、今のところ落ち着いた雰囲気だ。

 採択直後、韓国平沢市を訪れた「愛媛地球市民の会」の篠崎和夫会長(62)は「影響は一切なかった」と話す。「IT社会」をテーマに意見交換した日韓交流会の後、地元TV局から受けたインタビューでも、採択は話題にならなかったという。

 「数件の交流行事が中止となった去年のような急ブレーキは、確かにない。できレースだったためだろう」…。日韓の市民交流活動を続ける在日本大韓民国民団県地方本部の陳信之事務局長(47)も、こう語りながら、「だが、心のどこかに、もやもやしたものは残る」と県内約1700人の在日韓国人の心情を代弁する。今後の交流を見据え、「愛媛の在日はどうすればいいのか」ととまどいを隠さない。

 弁護士で松山・日本コリア協会の東俊一会長(55)は「愛媛の団体というだけで交流拒否という自体が起きかねない」と今後の影響を危ぐする。

 愛媛玉ぐし料訴訟の代理人だった被害会長は、裁判の過程で、自分を含めた日本人がいかに近現代史を知らないか、、学ぼうとしなかったか痛感。3月から定期的な勉強会を開いているが、「本当の意味での両国の歴史を学んでいないことが、採択を許す土壌を生んだのでは」と振り返る。

 東会長は「韓国の高校生は日本との関係を中心とした近現代史を深く学び、関心も高い。歴史教科書に詳しい記述はあるが、反日的ではない」とみる。そして「彼らはその上で友好を考えるが、日本人は友好だけをいう。この差が、いらだちを生んでいる。アジアの平和に不可欠な市民の信頼関係を築くために、歴史をごまかしてはいけない」と強調する。

 今回の採択は、日本で生まれ育ち、中学へ進学する年代の在日韓国人の子供たちにも影響を落とす。陳事務局長は「この世代の子どもたちは、日本にも韓国にも愛着を感じている」という。ワールドカップサッカーでは、韓国選手よりも日本選手をよく知っており、双方を応援した。

 しかし、この世代が県立中に進学すれば「日本だけは立派、との内容の教科書で歴史を学ぶ」と陳事務局長。「劣等感を感じさせる教育は親として許せない」と話す。

 日本で半世紀を生きた新居浜市の牧師安辰男さん(51)は、小学生時代に「朝鮮へ帰れ、臭い」とからかわれ、家出キムチを食べられなかった。「東南アジアに蔑視(べっし)的な記述をみて、いわれなき差別を受けた過去を思い、いたたまれなくなった」と、採択無効を求める訴訟の原告に名を連ねた。

 安さんは「正しい歴史を知らなかった当時は出生をのろった。教育がどれほど大切か身にしみる」としみじみと話し、「日本と韓国、アジアの歴史を正しく知った上でなければ、真の信頼関係はない」と強く訴える。

(2002/08/29 『愛媛新聞』より)