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「採択の波紋/県立中に扶桑社教科書」


A体質か関心の薄さ/教え方には変化なし?/沈黙の教育現場

 「大雨で家が水浸しのときに、夕食のおかずを話し合っているようなもの」…。扶桑社版歴史教科書を推進する「新しい歴史教科書をつくる会」評議員の大津寄章三・重信中教諭(43)は、県教育委員会の扶桑社版採択と、それに対する現場教員の関心の薄さを、こう例えた。

 同教科書は、従来の教科書と歴史観、教育理念が大きく異なり、採択は「戦後歴史教育の転換点」といっても過言ではない。それが如実に現れているのが、扶桑社版「教師用指導書」の記述だ。指導書は、教科書を使った授業例を挙げたものだが、文部科学省の検定は必要ない。そのため執筆者の”真意”がよりストレートに出てくる。

 扶桑社版指導書の授業例。「大東亜戦争の目的は何ですか。ノートに書きなさい。」。指導書で求めている答えは「自存自衛とアジアを欧米の支配から解放し、大東亜共栄圏を建設すること」。

 こんな記述もある。「アジア解放に対する日本の功績を2つノートに書きなさい」。答えは「有色人種が白色人種に勝てることをしめしたこと」「日本人が東南アジアに戦争の仕方を教えたこと」…。

 北条市宮内の元教職員組合委員長の西原一宇さん(62)は「教科書自体もとっぴな内容だが、指導書は戦争肯定の本音が丸見え」と眉をひそめる。

 採択以前から、こうした同教科書と指導書の記述内容をめぐり推進、反対派が議論をしてきた。昨年の県立ろう、養護学校の一部での採択、今年の一貫校採択の流れを受け、3年後の全国公立中一斉採択でも扶桑社版が焦点になるのは必至だ。

 にもかかわらず、実際に教科書を使用することになる現場教員は、ほとんど反応を示していない。県教育研究協議会(愛教研)の社会科部会の今年度の研究テーマにも含まれなかった。

 東予地方の20代中学社会科教諭は「同僚や先輩と一切、扶桑社版の話はしない。手に取ったこともない」と関心は薄い。「教科書問題よりも絶対評価の導入や高校入試改革の方が、現場には大きな問題だ」という。

 大津寄教諭は理由を「教員は自分の教え方を持っている。教科書が変わったぐらいで教え方は変わらないと、経験に対する自信があるからではないか」と分析。

 西原さんも「教科書が変わっても直ちに教師の教え方まで変わるとは思わない」とみる。しかし、「使ううちに、教科書にも指導書にも慣れてしまう。そうなると、変化を嫌い、以前の教科書には戻れないだろう」と危ぐする。

 中予の40代社会科教諭は「おそらく多くの社会科教諭は、扶桑社版採択に対して批判的なはず」と推測。大津寄教諭もこれに同意する。だとすれば、現場と県教委の意識に、大きな”ミスマッチ””が生じていることになるのだが、それに対する教員の不満さえ聞こえてこない。

 「教育現場のことは現場でやれる」とのプライドなのか。それとも、「愛媛の教育」の体質なのか…。

(2002/08/26 『愛媛新聞』より)