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「採択の波紋/県立中に扶桑社教科書」


 県教育委員会は15日、来春開校する県立中高一貫校で使う中学歴史教科書に「新しい歴史教科書をつくる会」主導の扶桑社版を採択した。昨年の県立ろう・養護学校の一部で、一般の公立中では全国初。2005年の公立中の全国一斉教科書採択に向け、推進派は勢い込み、反対派は採択阻止を誓った。沈黙する教育現場、賛否別れる保護者らの動き、知事選への影響など、広がる波紋を追った。(歴史教科書問題取材班)

@文科省指導に忠実/全国波及も否定できず/3年後への影響

 蒸し暑さが立ちこめる県庁第1別館10階に異様な空気が漂っていた。「関係者以外立入禁止」。廊下をふさぐ形で長机を幾重にも並べ、数十人の県職員が陣取る。その先で、教科書採択が審議されていた。

 「こんな光景は見たくないね」…この1年、扶桑社版歴史教科書採択の反対運動を続けてきた高井弘之さん(47)=今治市=は落胆した。目前の状況は県教委の体質を如実に物語っていたからだ。

 半世紀前の1956年、県教委は全国で初めて教職員の勤務評定(勤評)を強行。この切り崩しで組合離脱が相次ぎ、県教職員組合は壊滅的打撃を受けた。徹底した管理体制は着実に築かれていった。

 その愛媛でまた「全国初」。扶桑社版反対派の「子どもと教科書全国ネット21」常任運営委員の浪本勝年立正大教授は「勤評、全国統一学力テスト、教科書検定は、教育への権力の不当支配の象徴。愛媛はいずれも先陣。文部科学省にとっては”優等生”」と皮肉を込めた。
 勤評は愛媛発で全国に波及した。以後、愛媛県教委は県内市町村教委や学校現場に対し、強大な影響力を持ち続ける。

 3年後の全国一斉採択に向け、推進派の「新しい歴史教科書をつくる会」副会長の藤岡信勝東京大教授は「全国的にも愛媛県の公認は思い意味を持つ」と期待を膨らませる。

 反対派にとって、こうした流れは大きな不安材料。浪本教授は「管理教育県だけに、市町村教委への心理的影響は大きい」と警戒する。
 「3年後」への影響を探る上で、採択権限をめぐる国の動きは重要なポイントになる。

 文科省教科書かは「特定教科書に肩入れすることはあり得ない」と、扶桑社版採択に関する論争とは一線を画す。ただ昨年、「教科書採択は各教委の権限と責任で行うべきだ」との強力な指導を全国に発した。

 これまでの採択方法の実状は「膨大な教科書を教育委員が読破するのは不可能。教員などの調査・評価を教委が追認してきた」(他県教委関係者)。文科省の指導には、形がい化した教委の採択権を、法に基づいて取り戻すねらいがあった。

 これは、くしくも「つくる会」の主張と同様。「採択権は実質的に教育現場が持つべきだ」(浪本教授)とする反対派の主張と真っ向から対立している。

 今回の採択劇で、愛媛県教委は文科省の指導に忠実だった。中学校長や市町村教育長らで構成する県教科用図書選定審議会が出した選定資料の評価通りには採択しなかった。文科省は「県教委が実質的に論議して決めることは望ましい姿だ」と評価した。

 教育委員制度は56年、公選制から、知事や市町村長の任命制に変わり、権力者の意向が反映されやすくなった。そこに文科省の意図が新党すっれば、愛媛発の波紋が全国へ広がる可能性も否定できない。

(2002/08/25 『愛媛新聞』より)