・ばか


「ねえねえ、キョン! あたし、昨日凄い事実を発見したの!! あんたも聞いたら、驚愕のあまり失神してしまう事間違いなしよ!」
「……失神はしないと思うけど、一応聞こうか」
「ふっふっふ、なんと!」
「……」
「なんとなんと!」
「……」
「なんとなんとなんと!」
「……」
「なんとなんとなんとなんと!」
「……なあ、休み時間終わるぞ」
「ちっ。こんな重大発表の時ぐらい、教師も気を使って休講にすればいいのに……ま、いいわ。えー、おっほん……なんと! くじらって! 魚類じゃなくて! 哺乳類なの!」
「…………」
「ふっふっふ。どうよこれ。全然知らなかったでしょ。マグロの仲間だとか思ってたでしょ。あー、あんたホントバカね。超遅れてるって感じ」
「知ってたぞ」
「…………」
「知ってた」
「…………」
「…………」
「……い、イルカもなのよ! 知らなかったでしょ!? トピウオの仲間だとか思ってたでしょ!?」
「いや、小学生の時には知ってたし」
「…………」
「あ、でも、去年俺の妹も同じ事を」
「何よバカアホマヌケ! このバカキョンが!!」
「痛たたた! おいこら、痛いって! 髪を引っ張るな髪を!」







■□====


・しゃっくり


「ひっく」
「お、なんだ長門。しゃっくりか?」
「ひっく」
「止まんないのか?」
「およそ一時間前から止まらない……ひっく」


「しゃっくりって言えば、驚かすのが定番よね。みくるちゃん、いっちょ驚かしてあげなさい」
「え? あ、あたしですかぁ? う〜んと、が、がおーーっ」
「全然ダメよ。普通にかわいいじゃないのそれ。毎朝一回見たいぐらいだわ。古泉くん、手本を見せてあげなさい」
「ええ。では、このスプーンをフォークに変えてごらんにいれましょう。……ふもっふ!」
「うわ、すごっ! ……でも、それ手品よね。有希、眉一つ動かさないんだけど。しゃあないわね、あんまし当てになんないけど、キョンやってみなさい」
「はぁ? 俺もか? えっと、長門が驚く事だろ? んなもん、まるで思いつかない……何だよ古泉、その紙は」
「これに書いてある言葉を音読してみてください」
「何だよこれ。暗号か? えーっと、えぬ、えー、じー、えー、てぃー、……あ、何だ、ただのローマ字か。なになに、『ながと、あいしてるよ、けっこんしよう』……おい古泉。なんだこれ」
「プロポーズですね」
「うん、そうだね。プロポーズだねって納得すると思ったか?」
「まあまあ、長門さんのしゃっくりも止まったようですし」


「…………」


「……おい、しゃっくりどころか、ぴくりとも動かねえぞ」
「はは、効果覿面ですね」
「ま、瞬きもしてないですよ。大丈夫ですか?」
「ちょっとキョン! 何よ今のは! 有希になんて事言っちゃってんの!」
「ぐぇっ! お前、事ある毎にネクタイを締める癖は、いい加減改めてくれ!」
「おやおや、あちらを立てればこちらが立たず、ですか」
「でも、結婚かぁ。何だかいいですね。ふふ、あたしもそんな事言ってもらえるんなら、しゃっくり出せばよかったなぁ」
「……ひっく……あ、あたしもしゃっくりが出たわ! あんた驚かせなさいよ!」
「んな棒読みなしゃっくりがあってたまるか! ……あ、長門、この状況を何とか……あれ、お、おい、急にどこ行くんだよ」
「式場を予約してくる」
「うわ、本気です。長門さん、本気の目ですよ!」
「僕の親戚に式場を経営している者がいますので、そちらならお安くできると思いますが、何でしたら連絡しておきましょうか?」
「結婚生活には資金が必要。式はなるべく安いプランで」
「ま、待ちなさい有希! ほら、あんたさっさと言いなさいよ! あたしを驚かせなさいって! ひっく!」
「驚かせるもクソも、く、首が、首が絞まってるから、呼吸が、でき、できない……」


「ひっく! 何勝手に青白くなってんのよ!」
「り、理不尽すぎるだろ……」







■□====


・くしゃみ


「へぴしっ」
「……ちょっと、みくるちゃん。何よ今のへぴしって」
「あ、えっと、くしゃみですけど……ぴしっ」
「くしゃみ? くしゃみっていったら、もっとこう、はっくしょーーい! ってやんなきゃダメよ。聞いててスッキリしないじゃないの」
「え? で、でも、そんな大きく、へぴしっ、で、できませんよぅ」
「ダメよダメよ! そんなんじゃ健康にも悪いわ! きっと肝硬変とかになっちゃうんだから!」
「肝硬変にはなりませんよぅ。ただの風邪ですから……っぴしゅっ」
「屁理屈をこねないの! ほら、あたしに合わせてやんなさい、せーの、はっくしょーーい!!」
「は、は、はっくしょーいっぴちっ」
「ちっがーう! はっくしょーーいってやんの! そこで切るの! 語尾に変なのつけちゃダメ!」
「う〜、ご、ごめんなさい。は、はは、はーーっ、ぴしっ」
「もーー! だから、もっとこうお腹に力を入れて……」


(あー、朝比奈さん可愛いなチクショウ)
(……愛らしいですね)
(へぴし。新語登録。くしゃみの際に使用する)







■□====


・ひとり?


「失礼します……おや、僕が一番乗りですか」

「……あ、百円玉が。ラッキー。うまい棒十本ゲットだぜ!」

「…………」

「いや、やはり蒲焼さん太郎にしようかな」

「…………」

「拾った百円だし、皆さんにも配った方がいいかな」

「…………」

「しかしそうすると、うまい棒の方がバリエーション豊かで喜ばれる可能性が高い」

「…………」

「よし、折衷案として、ウメトラ兄弟にしよう」

「一人一人の机に置いておけば、涼宮さんが『ミステリー!』と叫ぶかもしれない」

「そして、犯人探しが行なわれる」

「最終的には、僕が崖に追い詰められて、涙ながらに犯行を自白しよう」

「この辺に崖ってあったかな」

「…………」

「…………あ」

「ウメトラ兄弟は三十円だった」



(驚かそうと思って掃除用具入れに入ったはいいが、出るに出れねえ……)







■□====


・すごろく


「キョンくんキョンくん!」
「あー?」
「学校ですごろく作ったの!」
「へー」
「サイコロもー!」
「ほー」
「一緒にやろー!」
「んー」


「えいっ……4だー。『明日いい事があります』だって。やったー!」
「はいはい、良かった良かった。じゃあ俺な。よっ、と……6だ」
「わ、キョンくんすごい」
「ふふん、任せとけ。えーっと、なになに、『一流証券会社に新卒で入社したものの、電車内で痴漢に間違われ一生を棒に振る。はじめからやり直し』」
「あー、ざんねん賞ー」
「…………」


「やぁっ……あれ、また1かぁ。『隣の家の犬に吠えられました。一回休み』。ちぇー」
「お、追いつくチャンス到来。そりゃっ……5」
「わわ、もうすぐ追いつかれちゃう」
「兄として当然だ。えっと、5だから……『遊びで付き合ってた女子高生を妊娠させて、関係者各位から袋叩き。入院して三回休み』」
「あー、ドンマイ賞ー」
「…………」


「とりゃっ……やった、6だ! あと一マスで上がりだよー」
「1ピッタリじゃないとダメだからな。ずるすんなよ……4、か」
「わわわ、キョンくん、次6出したら上がりだー」
「ふ、馬鹿め、お前みたいなチビが俺に勝つなんざ白亜紀ぐらい早いんだよ。4だから、1、2、3、4っと。えー、『浮気現場に恋人が乱入! 包丁を持ってフラフラとこちらに歩み寄ってきます。死ぬ気で説得して下さい』……説得?」
「あー、それね、4か5か6なら説得成功で、3以下なら失敗だよー」
「そ、そうか。…………あ、2だ」
「『失敗! 浮気相手共々刺されて死亡。広がっていく血の海の中、彼が最後に目にしたのは、自分の胸に包丁を突き立てる恋人の姿であった――はじめからやり直し』」
「…………もうお前の勝ちでいいや」







■□====


・かみのけ


「うわ! 鶴屋さん、どうしたんですかその髪の毛!」
「え? ああ、これ? 邪魔臭いからばっさり切っちゃったよ! どう? なかなかいけてるにょろ?」
「いけてますけど、それにしても随分切りましたね。耳が丸見えじゃないですか」
「う〜ん、そう言えばスースーするなぁ。チョット切りすぎたかなっ?」
「もうそろそろ寒い時期ですから。隠れてた方が、風邪引かないですんだかもしれませんね」
「おぅ、そだねっ! じゃ、も少し伸ばすことにしよ! とうっ!」
「……うわ!!」
「にょろにょろ〜」
「わ、わわわわわわわわ!!」
「にょろ〜ん、と。こんぐらいかな? どう? じゃーん!」
「つつつつ、鶴屋さん!? 今、今なんか!」
「ん? キョンくん、どしたのかなっ? 顔がマスカットグリーンにょろよ」
「か、髪の毛がにょろにょろって、にょろにょろって伸びましたよ!」
「うん。伸ばしたよ」
「のの、伸ばしたって、ど、どうやってですか!!」
「どうやってって、だから、伸ばしたんじゃんっ」
「何言ってんですか! そんな急に髪の毛伸ばせませんよ!」
「へ?」
「……へ?」
「…………」
「…………」
「……ちょっと、え? 嘘? きょ、キョンくん、ひょっとして知らなかったの……?」
「し、しら? な、何がですか?」
「は、あははは、じょ、冗談なんだよねっ? まさか、力めば伸びるって知らなかったわけじゃないよね? はははははっ」
「はははははは…………えっと、力むって、何を?」
「……うわぁ」
「う、うわぁ? あの、俺、何か変なこと」
「ゴメンよキョンくんっ、も、もう金輪際あたしに話しかけないでっ」
「え? ちょっと、鶴屋さん! 鶴屋さーん!」
「名前も呼ばないでっ! もうキミとは赤の他人にょろー!」 







「……って事があってさぁ、なんだったんだろうな、あの鶴屋さん。皆、何か心当たりは……あ、あれ? 皆、どうしたんだよ、何でそんなに俺から距離を置くんだよ」
「いや、力んだら髪の毛が伸びる事知らないって、あんた、産まれてきて十数年間何を学んできたの? 気持ち悪いわ、なんか」
「さすがにそれは、ちょっと引いちゃいますよぉ。とっても不潔ですし……」
「これに関しては、僕もちょっとフォローのしようがありませんね」
「有機生命体間における普遍的認識が備わっていない。異端。机の上に花瓶を置かれても文句は言えない」


「ち、違うんだ! 知ってたよ! 俺も知ってたって! 伸びる、俺だって伸びるから! と、頭皮! 頭皮なんだろ! 頭皮らへんに力を込めれば伸びるから! 不潔なんかじゃねえ! だから、だからそんな目で俺を見るなーー!!」



















「……何だこの初夢」







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・こんと


「どうもー、朝倉涼子でーす」
「喜緑江美里です」
「長門有希」

「えー、本日は、情報統合思念体合同新年会にお越し頂き、誠にありがとうございます。宴の途中ではございますが、この辺で、わたし達ヒューマノイドインターフェイス三人娘によるショートコントをお届けしたいと思いまーす」
「余興の一つとしてお楽しみください」
「抱腹絶倒」





「えー、わたしですね、こないだ奈良に行ったんですよ、奈良に」
「奈良と言えば、京都と並ぶ、日本の代表的な古都の一つですね」
「柿の葉寿司」
「で、奈良といえば、やっぱり奈良公園じゃないですか。でもですね、わたし、いざそこに行ったら、すごくビックリしちゃって」
「まあ、何ででしょう」
「鹿せんべい」
「それが、奈良公園には、鹿しかいない……なんちゃって」
「あら、うふふふ、おかしい」
「……なんで鹿しかおらへんねん」


(……ちょっと、長門さん! これ本当にコントっていうの!? 何か違うんじゃないの!?)
(ふふふふ、鹿しかいない。うふふふ)
(大丈夫。どっかんどっかん受けてる。次のシークエンスへ移行)





「え、えー、そうそう、わたしこないだ、アフリカに行ったんですよ、アフリカに」
「アフリカと言えば、数万年前の自然を今尚残す、地球上でも非常に貴重な大陸であると言われていますね」
「ワニの丸焼き」
「やっぱり、アフリカ行ったとなると、コレは動物を見なきゃいけないなぁーっと。で、ガイドさんに連れられて自然公園に向かったんですけど、そこでわたし、決定的瞬間を目撃してしまったんです」
「まあ、何でしょう」
「ワシミミズクの丸呑み」
「それが、チーターが崖からおっこちーたー瞬間……なんてね」
「あら、うふふふ、おかしい」
「……なんで落っこちんねん」


(……ちょっと、長門さん! 本当に大丈夫なの!? 初めから思念体に笑うとかいう概念は無いってわかってるけど、それにしたって向けられる情報圧が冷たいような気がするんだけど!)
(ふふふふ、チーターが、チーターが、うふふふ)
(大丈夫。彼らも噴出すのを我慢しているに過ぎない。次のシークエンスへ移行)





「ごほん、えー、わたし、最近旅行続きでして、こないだもカリフォルニアのモントレー半島に行ってきたんですけど」
「太平洋の青さと緑が美しい半島ですね。スタインベックの『エデンの東』の舞台にもなっています」
「魚介類が豊富」
「何をしに行ったかって言いますと、野生のアシカを見に行ったわけなんですけどね、でもいざ行ってみると、とってもガッカリしちゃって」
「まあ、どうしてでしょう」
「新鮮な野菜も豊富」
「それが、海岸脇の立て看板にね、『アシカはいませんあしからず』って書いてあったのよ……なんつって」
「あら、うふふふふ、おかしい」
「……なんでアシカおらへんねん」


(……ちょっと、長門さん! 何かわたしだけ情報連結が解除されてるんだけど! 足もう無くなってるわよ! ていうか何でさっきからわたしばっかり矢面に立ってんのよ! 喜緑さんも笑いすぎでしょ!! 全然面白くないじゃない!!)
(ふふふふふ、だって、だってアシカがあしからずって、ふふふ、上手いですね、うふふふふ)
(素晴らしい突っ込み。見習いたい)





「うぐぐぐっ……あー! もう止めよ止め!! 何なのよあなた達!! 自信満々でコレいけるとか言ってたくせに! 全然宴会芸になってないじゃないの!!」
「あら、うふふふふ、ここにきて仲間割れからの解散オチですね」
「素晴らしい流れ」
「ちっとも素晴らしくないわよ!! 大体ね、なんであなた達がピンピンしてるのに一番頑張ってるわたしだけが消えないと、ってもう口まで来ちゃってるしぃっ……」
「まあ、一人だけ消滅オチなんて……ぷっ、ふふふふ、おかしいです、笑いに貪欲すぎます、うふふふふ」
「最後に全部持って行かれた」





『続きましてー、主流派と急進派による、ガチンコ情報相撲対決を…………







■□====


・じょじゅつこくはく


 ある朝目覚めると、凄くいい天気だったもんだから、ハルヒに告白してみることにした。
 しかしよくよく考えてみると、俺とハルヒが二人っきりになるシチュエーションなんてのは一日の中にそう易々と存在しえず、だからといってじゃあ止めとくかなってのも何かアレだし、というかこの機を逃したら二度と言わないままあの世に行ってしまいそうだったので、無ければ自分で作ればいいじゃないという誰かさんの主張に乗っ取り、三十手前で見つけた収入がそこそこの男を逃すまいとするお局のように荒い息遣いで、俺の方からハルヒを散歩に誘ってみた。


「どうしたのよ、いきなり。あたしに何か言いたいことでもあんの?」
「ああ、まあ、ちょろっとな」
「何でわざわざ外に出んの」
「……人目があると、言いにくい事もあるだろ?」
「人目って……まあ、いいけどね別に。で、何なの?」
「その前にだな、適当な話題をワンクッション置かないか?」
「置かないわよ。めんどいし。ほら、さっさと言いなさい」
「あー、っと。えっとな、……す! すぃ、すぃす!」
「スイス?」
「スイス違う。あれだよ、スだよス!」
「スだけじゃわかんないわよ!」
「続きがあるんだ! す、すの次はだな。す、す、す、すすす、」
「…………」
「……すき焼き食いたくないか?」
「別に食べたくないけど」
「…………」
「…………」
「いや、違う違う。すき焼きとかどうでもいいんだ」
「はあ? あんた今食べたいっていったじゃないの」
「言ってない言ってない。俺はな、なんていうか、こう、お前と、いや、お前が? す、すすす、すぅ〜」
「酢?」
「酢じゃねえ。ほら、わかるだろ? すの次に来るのは、もうアレしかないじゃないか」
「……酢醤油?」
「鍋物から離れろよ!」
「あんたがすき焼きとか言うからでしょうが!」
「…………」
「…………」
「違うんだよ。鍋物から離れよう。というか、食べ物とかじゃなくて、もっとこう、内面的なものでな」
「内面的って何よ。もっと具体的に言わなきゃわかんないでしょうが」
「あの、あれだよ……スキーってあるじゃないか」
「ウィンタースポーツ?」
「そう、そのスキー」
「まるで内面的じゃなくない?」
「そっからさ、棒を引いてみるわけよ。そしたらお前、内面的な話にパラダイムシフトするだろ?」
「スキーから棒を引いたら、板しか残んないわよ。それただのスノボじゃない……あ、今年の冬はスノボしに行きたいってこと?」
「ちっがうだろ! そっちの棒を引いてどうすんだ! 延ばし棒を引くんだよ! 字面の延ばし棒を!」
「あー、もう! うっさい! スキーから延ばし棒を引くのね!? だったらスキよ!」
「それだ!」
「それよ!」
「…………」
「…………」
「…………」
「……スキって、好き?」
「そうそう、それそれ。好き好き」
「あたしのことが?」
「そうそう」
「好き?」
「それそれ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「キョン」
「何」
「あんたねえ」
「何だよ」
「どうしてそんな事言うのに一々手間取ってんの! 結婚して何年経つと思ってんのよ!」
「いや、だって、言ったこと無かったもんだから」
「……言ったこと無かったっけ?」
「ついでに言うと、お前から言われた事も無い」
「あっはっは、そんなまさかぁ」
「…………」
「…………」
「…………」
「よ、よーっし。言えるわよそんぐらい! 言ってやるから! 楽勝だってのそんぐらい!」
「へいへい」
「あんたの男らしさの欠片も無い言葉とは違うわ。すらっと言うわよ。すらっと」
「はいはい。わかったから、早く言ってみろよ」
「くっ! 先攻だったからって偉そうに! ……ムカつくけど、まあいいわ。ちゃんと鼓膜を全開にして聞きなさいよ。……す、すすす……すぃ、すぅ、すー」
「す?」
「す、すす、すー、……すっすす!」
「すしか言ってねえよ」
「うっさい! これからが本番よ! す、すーーーっすす! すすっすすすっ」
「…………」
「すぅ、すぅ…………あ、そうだ。スイカ買って帰ろっか?」



 その日の夕飯はすき焼きで、デザートはスイカだった。
 娘が大喜びだったので、結果オーライ。